東京高等裁判所 昭和43年(う)1050号 判決 1968年8月22日
主文
原判決を破棄する。
本件を千葉地方裁判所八日市場支部に差戻す。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人伊藤博文提出の控訴趣意書及び控訴の趣意補充書記載のとおりであるからここにこれを引用する。
先ず職権により原審の訴訟手続について調査するに、本件記録によれば、本件は昭和四二年一〇月三日八日市場簡易裁判所に公訴が提起され、同庁において、証拠調等事件の実体に関する審理をなした上、同年一二月一八日刑事訴訟法第三三二条により本件を千葉地方裁判所八日市場支部に移送する旨の決定がなされたため、同支部に係属したところ、同支部においては更新手続をすることなく審理、判決をなしたことが認められる。
しかるところ、刑事訴訟法第三一五条で開廷後裁判官がかわったときは公判手続を更新しなければならないとしたのは直接主義、口頭主義の要請によるものであるから、原審が移送を受けた本件の審理、判決をなすには先づ公判手続を更新しなければならないのであって、本件の如く自然人たる裁判官が同一人であるということによりその例外であるとはいい得ないのである。(昭和二九年七月一四日最高裁判所判決参照)
而して、原審においては、刑事訴訟規則第二一三条の二による更新手続がなされていないために本件についての冒頭手続等が一切なされていないのであるから、右の訴訟手続違反は判決に影響を及ぼすことは明らかであり、論旨に対する判断をなすまでもなく、原判決はこの点において破棄を免れない。
よって、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七九条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文に従い本件を原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 津田正良 判事 酒井雄介 四ツ谷巌)